世界各国のステーブルコイン規制動向について

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はじめに

ステーブルコインは、仮想通貨業界において急速に注目を集める存在です。ビットコインやイーサリアムのような価格変動の大きい暗号資産とは異なり、ステーブルコインは法定通貨や資産に連動して価格を安定させているのが特徴です。

この特性から、決済・送金・DeFi(分散型金融)など幅広い分野で活用が進んでいますが、一方で各国の法整備や規制の在り方が市場の成長に大きな影響を与えています。本記事では、アメリカ、日本、EUを中心に、最新のステーブルコイン規制の動向を整理して解説します。


アメリカ:連邦規制に向けた動きが本格化

2025年6月現在、アメリカではステーブルコインに関する全国レベルでの包括的な法律はまだ成立していません。しかし、連邦議会では複数の法案が並行して検討されており、特に「STABLE Act」や「GENIUS Act」といった法案に注目が集まっています。

2025年3月には、これらを統合した「STABLE GENIUS法案」の成立に向けた動きが加速し、下院での公聴会でもその必要性が強調されました。この法案では、ドルに連動するステーブルコインに対し、銀行並みの流動性基準や償還義務が求められる見込みです。

また、金融安定理事会(FSB)やFATF(金融活動作業部会)といった国際機関も、規制指針を提言し、米国政府の対応に影響を与えています。

州単位では、特にニューヨーク州のBitLicense制度が代表例です。信託会社Paxosが発行するUSDPやBUSDなどが、NY州の厳格な認可制度の下で流通しています。

総じて、アメリカはステーブルコインを金融インフラとして制度に組み込む過渡期にあり、今後の法案成立が業界の方向性を大きく左右すると見られます。


日本:世界に先駆けた法制度を整備

日本は、ステーブルコインに対する法整備で世界的にも先進的な国のひとつです。2022年に可決された改正資金決済法が、2023年6月より施行され、国内でのステーブルコイン発行と流通が正式に認められるようになりました。

この改正では、ステーブルコインを以下の2つに分類:

  • デジタルマネー類似型(法定通貨担保型)
  • 暗号資産型(担保資産が暗号資産、もしくはアルゴリズム制御)

前者については、「電子決済手段」として新たに法的定義され、発行できるのは銀行・信託会社・資金移動業者など、信頼性の高い機関に限られています。

また、流通・交換を担う事業者も登録制となり、金融庁の管理下で業務を行うことが求められます。これにより、以前はグレーゾーンにあった日本円連動型のJPYCや、三菱UFJ信託銀行の「Progmat Coin」などのプロジェクトが合法化され、注目を集めています。

とはいえ、実際の発行には高い法的ハードルがあるため、初の本格的ステーブルコインの登場は2024年以降にずれ込む見通しです。日本の制度設計は、利用者保護と透明性確保を重視した内容となっており、世界中の規制当局からも高い評価を受けています。


欧州連合(EU):MiCA規則による包括的ルール整備

EUでは、2022年に暗号資産全般に対応する包括的な規制枠組み「MiCA規則(Markets in Crypto-Assets Regulation)」を採択しました。この規則は、2024年6月以降、段階的に施行されていきます。

MiCAでは、ステーブルコインを以下の2種類に分類し、それぞれに厳格な要件を課しています。

  • 資産参照トークン(ART)
  • 電子マネートークン(EMT)

たとえば、裏付け資産との**1対1の交換権(償還)**の保証や、十分な準備金の保有ホワイトペーパーの提出義務などが盛り込まれています。

さらに、流通量が膨大になる場合には追加の資本要件が課され、法定通貨とのバランスや金融安定への影響にも配慮されています。マーケティング活動や誤解を招く表現にも制限が設けられ、発行者はEU銀行当局(EBA)の監督を受けることになります。

MiCAは世界初の暗号資産に関する統一ルールとされ、EU内でのビジネス展開にはこの新ルールへの準拠が必須です。現時点では一部の技術的細則が調整中ですが、今後の国際的な規制の指針となる可能性が高いと言えるでしょう。


その他地域の動きと国際的な協調

日本・アメリカ・EUに続き、シンガポール、香港、イギリスなどもステーブルコイン規制に積極的に取り組んでいます。中でも、香港では2023年に仮想資産関連法を改正し、2024年にステーブルコイン発行者へのライセンス制度を導入予定です。

さらに、国際機関レベルでも協調が進んでおり、金融安定理事会(FSB)や金融庁が参加する国際会議では、世界共通の規制基準の策定が進められています。


まとめ:ステーブルコインは今後の金融制度に不可欠な存在へ

ステーブルコインは、単なる暗号資産の一形態にとどまらず、次世代の国際金融インフラとしての役割が期待されています。そのため、各国政府や国際機関も真剣に規制の在り方を模索し、慎重かつ迅速に法制度の整備を進めています。

特に、法定通貨との交換性・準備金の裏付け・透明性の担保といった課題は、世界中で共通の論点となっており、今後の規制強化やルール整備の行方から目が離せません。

2025年以降、世界各地で本格的なステーブルコインの発行・流通が拡大する可能性があり、投資家・事業者・一般ユーザーのすべてにとって注目の分野となっています。